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2.仕事選びの間違い~一生懸命やっても半分失敗するワケ…

小川忠洋

一生懸命やっても半分が失敗するワケ

多分、社会に出る前のあなたは、きっとこんな風に思っているんじゃないだろうか?

  • 「自分の強みなんて、正直わからない」
  • 「どんな仕事が向いてるかなんて、やってもないのにわからない」
  • 「それなのに一発で就職する会社を決めるなんてできない」

そう思ってるんなら安心してほしい。それが普通だから。今の時点ではそれでいいんだ。ただ、いくつか致命的なポイントがあるので、それらを紹介していこう。

一般的な就活生が参加する会社説明会の数は20~40社が平均だという。多い人は、これよりもっと多い。たくさんの情報のなかから選んだ数十社の説明会に、バリッとリクルートスーツを決め込んで行き、エントリーシートをたくさん書いて(手書きなんだって?あほくさ)、んでもって先輩や同期と情報交換をして、たくさん面接して……、あれだけエネルギーをかけて入った会社なのに、なんと3人に1人はスグに辞めることになる。

最近のデータでも、入社後3年以内に辞めた人は32.3%(平成24年度就職者データ)なので、ちょうど3人に1人くらいだ(ちなみに1年以内に辞めるのが12.2%、2年以内に辞めるのが22.8%)。

そしてこのデータ、過去10年以上、ほとんど変わってない。

過去10年以上、ずっと失敗続き…

会社を辞めるって、結構な大決断だ。だから普通に考えたら、不満タラタラだけど仕方なく会社に残ってるという人もたくさんいるはずだよね?だって3人に1人が辞めてるんだから。

残りの3人に1人も、本当は辞めたいけど辞めるまで行かず、「こんなハズじゃなかったんだけどな」って我慢してる人がいるんじゃないかな?サラリーマンが居酒屋で愚痴ってる話は聞いたことがあるでしょ?

そう考えると、あれだけ一生懸命に就職活動をしても、結局、半分以上の人が失敗しているということになる。しかも、それを10年以上も続けてるんだから、「何か、間違ってませんか?」と考えるのが普通だよね。いや、間違ってるんだ、実際。

そもそも考えてみて欲しい。実社会に出る前から世の中のことを知っている人なんて、まずいない。

世の中にどんな仕事があって、その仕事ではどんな能力、才能を要求されるのか?

そのなかでどんな仕事が自分に向いていて、どんな仕事が向いていないのか?自分は何が好きで、何が得意なのか?あなたもそういうことはほとんど知らないはずだ。

いや、知らなくていいんだよ。それが普通だから。

現時点で自分の適性を知ってる人は例外

なかには同年代でもそれをしっかりと知ってるような人もいる。そういう人と比べると焦っちゃうよね?まぁでも、そういうのって特殊なケースだから、気にしなくていい。

20代の今の時点で自分のことをしっかり知っているという人は、子どものころからやりたいことがあって、それに向かって生きてきたような人たちだ。つまりはスポーツ選手とか。例外でしょ。普通の人はサッカーの本田や野球のイチローみたいに、子どものころから夢に向かって突き進んできたわけじゃない。

スポーツ選手の他にも、たとえば医者や弁護士など専門職とされるようなもので、その職業の歴史の長いものは、教育機関があるから、学生のうちから専門知識や専門技術をしっかり習っている。そのうえ、そういうのって普段から接している職業だから、わかりやすい。だいたい子どもがなりたいと思う職業って、パン屋さんとか看護師さんとか、普段身近に接している職業ばかり。

でも世の中には、普段の生活では絶対に接しないような職業がたくさんある。例えばテレビ局のプロデューサー。テレビは見ても、その裏の仕事は見えない。

だから、「プロデューサーになりたい」という子どもは、普通はいない。しかも、その仕事は比較的新しいから、やり方や技術が固定化されているわけじゃない。となると教育もできないわけだ。

つまり、ビジネス社会というのは、いわゆるスポーツのようにルールややり方が明確だったり、医者や弁護士のようにある程度決まった仕事のやり方、流れがあるものばかりじゃないということ。それに、新しい仕事は常に変化している。

そして、若いころ、子どものころには、そういった職業に接することはない。だから現時点でどんな仕事が自分に向いていて、何が自分の強みなのかなんて、わかりっこないわけだ。


自分の適性や才能と、世の中の仕事のフィットするところが最適。ところが普通はどちらも知らない

そんな状況下で、「一発で決めろ」と言われるほうが、無理があるんじゃないだろうか。
つまり、あれだけ一生懸命、考え抜いて選んでも、ほとんどが就職に失敗する理由は、自分の適性やビジネス社会を知らないのに、「一発で決める」ということ。

自分の適性も知らず、世の中にどういう仕事があるのかも知らないのに、その2つが重なるところを見つけろという話だから、失敗して当然なわけ。

だから本当に大切なのは、
「一発で決めようとしない」
ということ

じゃないかな。社会に出て何年かすれば、世の中にはどういう仕事があって、自分はどういう仕事が得意で、どういう仕事が苦手か、ということがわかってくる。その時になって、初めてより成功率の高い選択ができるようになる。

とはいえ、「じゃあ最初はどう選択すればいいの?」って話だよね。
そのヒントになるような話をこれからつらつらとしていきたいと思う。

まずは、最初に聞いて欲しい話がある。それは、ほとんどの人が会社を選ぶときに、なんとな~く考えていることだ。みんながなんとなく思っているので、確固たる芯がない人は、この周りの雰囲気に流されてしまう。そうなるとどうなるか?ぼくの昔の部下の一人である男の話を聞いて欲しい。

彼の名前を仮に「S」としよう。Sは大抵の学生と同じく、就職活動の時に自分なりの判断基準というものを持っていなかった。社会のこともわからないし、将来のことも漠然としていたので、無理もない。  Sがどうやって会社を選んだかというと、安定しているところ、有名なところ……そういう基準だ。

彼は九州大学に行っていたので、日本一の大企業に入社することができた。「この会社に入れば人生安泰っしょ」と言えるような超優良企業だ。親や親戚は大喜びだった。業績も世界一と言ってもいい。日本を代表する会社だ。  しかし、Sは入社3年目くらいに恐ろしい事実に気がついた。というのも、仕事が嫌で嫌で仕方ないのだ。納得のいかない仕事をやらされ、年上の上司は仕事ができないのに偉そうで、自分の仕事が社内政治のための仕事じゃないか、と思う時すらあった。

3年目くらいに
恐ろしいことに気がついた…
仕事が嫌で嫌でしかたないのだ..

しかしそんなのはよくある話。恐ろしいと思ったのはここからだ。  Sは超安定した大企業に入っていたので、収入も同年代に比べればそこそこ高かった。しかし、「ここに居ては腐る」と思って会社を辞めようと考えたとき、社会に1人放り出されたら、自分は何もできないただのアホだ……ということに気がついたのだ。

その会社はあまりに大企業だったため、仕事は完全にパーツごとに別れ、モジュール化されていた。たとえばスマホを製造する場合なら、スマホのデザイン、ディスプレイ、カメラ、バッテリー、OS、初期設定のアプリ、内部の配線の設計などを、全部別々のチームで担当してるような感じ。 バッテリーの仕事を3年5年としてきた人は、ずっとバッテリーの小型化、高性能化に命をかけてきていて、バッテリー以外のことは知らないだろう。

Sの場合は車を製造する仕事だったが、車のエンジンや設計なんかは別のチームがやっていて、ひたすら車の塗装をする仕事だった。Sはそのモジュール化された仕事を3年間ずっとやっていた。つまり、その塗装のこと以外は何も知らないも同然の状態。

それでは再就職するとしても、関連会社か下請けの会社にしか行けないだろう。それは今とやる仕事はほとんど変わらず、グレードが下がるということを意味していた。  幸い、Sはまだ独身だったので、ゼロから再スタートする覚悟で辞めることにした―が、それから半年間はニートのような生活をするはめになり、将来に絶望したそうだ。その時のSには選択肢がほとんどなく、その大会社で働いていた時間は無意味になった……。Sは、完全に会社に依存していた自分に気がついたのだ。

安定には代償がある

失敗する学生のほとんどにとって、会社を選ぶときの判断基準は、自分の能力や向き不向き、あるいは業界や商品の好き嫌いなどではなく、「世間体」と「安定」じゃないだろうか?

世間体:誰でも知ってるような有名な会社。親や親戚が知ってて喜びそうなところ。友達や同級生に言っても恥ずかしくないところ〜ところでこれらが効果的で『ヘェ〜どこどこ入ったんだ!すごいね』って言われるのは、最初の1年くらい。

でも「安定した会社」を選ぶというのは、要するに「安定した会社に依存したい」というマインドなわけで……。その通り、Sもあまり考えずに自分の人生を会社に依存してしまって、嫌になった時には身動きが取れなくなってしまった。

おそらく、こんな話は世の中にゴマンとある。「安定」には、支払わなければいけない「代償」がある。自分が望む人生を歩みたいなら、自分の実力で自立しなければいけない。何かに「依存」することは避けなければいけない。  依存するのは、自分の頭を使わなくていいから楽だ。その会社、あるいはその組織にすべてを託しているので、自分自身がこの不確実な世の中の先行きを考える必要はない。  世の中は何もかもが変化していくものなので、本質的に「安定」なんてものはこの世に存在しない。

もちろん変化の遅い業界もあれば、変化の早い業界もある。変化の遅い業界のほうが、安定していると言えるかもしれない。しかし、変化の遅い業界は、大抵のケースで得られる報酬も少ない。  得られる報酬が高い場合は、常に新しい競合が参入してくる。「安定」や「確実性」を求めるのは、人間の根源的な心理であるから、恥じる必要はない。

しかし、世の中は根本的には「不確実」で「不安定」であるということを忘れてはいけない。自転車は止まると倒れる。それと同じように、走り続けているから安定しているように見えるだけかもしれない。  社会に出るということは、初めて「不確実な世の中」と直面するということだ。

それまで大抵の人は、「親」という「傘」が不確実性から守ってくれていた。  子どもだったあなたは、生活費や将来のことなど気にせず、自由気ままに遊んで育つことができた。少なくともこの点では親に感謝しよう。

そして、「親」という「傘」がなくなった人は、新しい「傘」を探す。それが「安定した会社」だ。  安定した会社に入れば、世の中の不確実性に直面しなくて済む。だから大企業に入った人は「会社が潰れる」なんて想像もできないし、「赤字」を自分の財布が痛むように感じることはない。何かバーチャル・ゲームの数字が動いているようにしか見えない。  しかし、現実には不確実性が無くなるわけじゃない。その不安と戦っている。大抵は、その会社の経営陣だ。「傘」に入った人の代わりに、経営陣が不確実性の不安やリスクと直面しているだけだ。

一方で、安定した会社という「傘」に入った人は、それがなくなったら、これまで不確実性の不安と直面してこなかったので、非常に弱く脆い自分に気づくだろう。それがつまり「傘」である会社に依存しているということだ。  そして、その依存の代償として、支払わなければならないものが、あなたの「選択肢」であり「自由」なのだ。

会社に依存することは
あなたの自由を売り渡すこと

「責任は自由の対価」  だと著名な作家が言ったが、その通り。自分の人生の責任を自分で取る覚悟があれば、自由な人生を送ることができる。しかし、その責任を「安定した会社」に押し付ければ、あなたは自由を会社に売り渡したことになる。

大切なのは、どんな会社に入ったとしても、会社に依存せずに自立してなければいけないということだ。自分の人生なんだから、他人のせいにするのはやめて、自分自身で責任を取らなければいけない。  もちろん、会社が潰れたらあなたのキャリアは台無しになるが、どんな世界でも、仕事のできるヤツが職に困ることはない。不確実な世の中で手に入る本当の安定は、会社の規模や安定性にあるのではなく、あなた自身の市場価値がどれくらいあるのかというところにあるのだ。

市場価値こそ安定の源

市場価値が高い人は、一生涯、どこにいても、どんな不況でも仕事に困らないだろう。だからこそ、会社に入っても自分自身の市場価値を上げることが大切なのだ。一方で、会社に依存して自分の市場価値を上げようとせず、低いままの人は、どんなに良い会社にいても、業績が悪化したら真っ先にリストラ候補になる。

誤解しないでほしいが、これは「会社の安定性なんてカンケーねぇぜ、 ベイベー!」という意味ではない。企業の安定性は1つの指標に過ぎず、 それが直接あなたの人生の安定性にはならないということだ。自分なり の判断基準を持ったうえで、安定性を見るのは正しい見方だと思う。でも、安定性に惑わされちゃダメだってこと。

世間体に関しては言うまでもないけど、あなたは自分の親や親戚のために就職するのではない。仕事を始めたら、毎日毎日、朝から晩まで働くのはあなた自身であって、彼らではない。そして見栄を張って彼らが 喜ぶのは最初だけだ。10年間喜び続けてくれるわけじゃない。忘れないでほしいのは、

仕事が楽しければ人生は天国だし、仕事が苦痛なら人生は地獄だ

ということ。人生の90%以上の時間は、仕事の時間か家族の時間。だから、仕事も好きで夫婦円満だと、最高に幸福な人生になるだろう。だからこそ、見栄や世間体で選ぶもんじゃない。世間体を気にしすぎる人は、基本的には自分の人生を生きることができない。

同期に張り合って就職先を決めても、ロクなことにはならない (半分くらい失敗するんだから)。人の目を気にして生きることは、自分を見失うことだ。 仕事はブランド品のバックではないし、高級時計でもない。仕事は好むと好まざるに関わらず、あなたの人生を注ぎ込むものだ。

市場価値は何で決まる?

市場価値とは何か

Wikiによれば、「市場価値」とは 「価格時点において買う意欲のある買い手と売る意欲のある売り手が各 自市場及び資産に関する十分な情報を持ち、慎重に、かつ強制されない で行動し、適切なマーケティングの後に、第三者間の公正な取引交渉を経て、当該資産が交換されるであろう評価額である」ということだが、よく意味がわからん。

要するに、売り手と買い手が その資産に関して同意した価格だってことだ。もちろん、この場合の売り手ってのは「あなた」のことで、買い手が 給料を払う「会社」。ポイントとして注目してほしいのは「資産」とい うキーワードだけど、それはつまり「あなた自身が持つ資産、提供する 価値」ってことだ。


あなたが提供する価値、資産を会社は買う

あなたは、あなたの資産である「時間」や「知識」「技術」を使って、 会社に価値を提供する。その対価として、会社はそれに「ある価格」を 支払う。これが「給与」になるわけだ。

ところが、世の中には他にもたくさんの「買い手」がいて、他の買い 手もあなたの提供する「価値」をお金を払って買いたいと思う。


市場価値が高ければ、1つの会社が潰れても何の問題もない。市場価値の高い人には常に他の選択肢がある

その価格のだいたい「落ち着くところ」が、あなたの市場価値ってことになる。どれだけ世の中が不況になったとしても、どこかには「買い手」は存在する。日本のすべての「買い手」がなくなるなんてことは起 き得ない。すると、あなたの市場価値が高ければ、1つの「買い手」が潰れてな くなったとしても、他の買い手がいくらでもいることになる。自分の市 場価値のほうが、1つの会社の安定性などよりも、よっぽど自分の人生 を安定させてくれる。

あなたの市場価値を高めるには?

じゃあ、市場価値を高めるにはどうすればいいか?ここが結構ポイントだ。  先ほども言ったように、「買い手」はあなたの「資産」を買っている。では、どんなものが会社の買いたい「資産」なんだろうか?

一般的には「時間」「知識」「技術」「能力」「人脈」などがそれに当たる。  しかし、大学の一般教養と専門課程みたいなもんで、知識、技術、能力にも、基礎的なものと専門的なものがある。たとえば、大抵の業種で必要とされる基礎能力が、ご存知、コミュニケーション能力だ。他にも論理的思考力やストレス耐性なども求められる。  でも考えてみるとわかると思うが、これらの基礎能力はあったとしても、大して高値では売れない。居酒屋の店員さんでコミュニケーション能力がめっちゃ高い人など、いくらでもいるが、高い市場価値があるとは言えない。


需要と共有で市場価値(価格)は決まる

では、市場価値を高めるには何がポイントなのか?

価格は何がポイントで決まるんだろうか?

答えは、簡単に言えば需給関係にある。要するに需要が低く、供給が多いものは、基本的に安い。あなたが知ってる有名な仕事や業界は、だいたい「需要が多く、供給も多い」というジャンルに入るだろう。

美容師、整体師、歯医者、弁護士なんかもそう。これらはかなりの専門技術がいる。しかし、どれだけ高い専門技術が必要だろうと、供給も多かったら価値は下がる。  驚くかもしれないが、エリートの代表のような弁護士の平均年収は642万円だ。平均月収にすると53万5000円。上場企業2375社の従業員の平均年収は598万1000円だ。これだったら上場企業のサラリーマンになるほうがはるかにいい。  歯医者も弁護士もその資格を取るために、めちゃめちゃ金と時間をかける必要がある。しかし、現実には供給が多すぎるため、年収は低くなっているのだ。歯医者の4人に1人は年収200万円以下だという(月給16.6万円以下)。

平均年収とかは調べ方によっていろんな数字が出てくるので、本気で興味がある人は自分で調べてみたほうがいい。弁護士年収参考:http://president.jp/articles/-/18443

基本的に、価値とは「希少性」による。世の中に少ないものは高くなり、いくらでもあるものは安くなる。考えてみて欲しいんだが、ダイヤモンドという何の役にも立たないものが、なぜ高額で売れるのか?そう、希少だから。  牛丼という生命維持に欠かせないものが安いのなぜか?そう、牛肉が豊富にあるから(希少な牛肉は脂っこくて微妙でも高い。希少なワインは味の判別ができなくても高い)。

つまり、あなたの市場価値を高めようと思ったら、高く評価される資産を作らなければいけないのだ。それは、他の人とは違うことができるようにならなければいけないということ。みんなと同じことができても意味がない。  需要があって、あなたやごく少数の人にしかできない仕事があれば、めちゃめちゃ高値で売ることができる。そのためには、普通の仕事を圧倒的なレベルにまで高めるか、他の人がやっていない、持っていないような専門知識や専門技術を身につけるかである  (安心して欲しい。世の中はかなり広いので、自分たった1人にしかできないような技術や知識を身につける必要はない。ポイントは世の中に比較的少ないものってことだ)。

ところが、われわれ日本人は、「みんなと一緒」が好きなもんで…だからみんな一緒に似たような就職活動するのかもね。あなたも同級生や友達と一緒のことをやってると安心するでしょ?でも、それじゃ市場価値はあがらないよ、ということ

収入より大切なもの=「資産」

そういうわけで、ほとんどの人は年収とか「収入」のことばかり考えるが、長期的に考えなければいけないのは「資産」のほうなんだ。資産とは収入を生み出すものだし、資産こそが安定、安心をもたらしてくれる。  そして「資産」が「収入」よりも優れているのは、使っても無くならないってこと。

例えば、不動産なんかは、家賃という収入を生み出すから資産。しかしいくら家賃を生み出したとしても、不動産はなくならない。商品の設計図とかもそうだね。どれだけ収入が高くても、収入は使ってしまったらなくなってしまう。  年俸何億円も貰っていたスポーツ選手なのに、引退したらお金に困るなんてのはよくある話だ。ビジネスマンで言えば、年収が高いけど浪費して貯蓄がまったくないとか、信じられないだろうけど本当によくある話。さらに、専門スキルや知識などの資産は、使ってなくなるどころか、使えば使うほどに増えていくというのが面白い。

というわけで、「自分の資産を構築をしよう!」という話なんだが、大切なのはここからで、学生というのはたいてい価値ある資産なんか持ってない。資産ゼロの状態である。もちろん、今まで学校教育で学んできたことや部活動とかで経験してきたことが、資産になってることは間違いない。

しかし、残念ながらそれらはちょっと売りにくい。今後、仕事をしていく上では役立つだろうが、あなたが学生生活で経験し、学んできたことは、あまりに基礎的すぎて売れる資産にはなりにくい。  学校での勉強はスポーツにおける筋トレみたいなものだ。基礎体力を作るのには非常に役立つが、「基礎体力が高い」とか「めっちゃ足速いです」だけでは、どのチームも雇ってはくれない。  サッカーならサッカー、野球なら野球と、専門的な技術がなければ、売り物にならない。

学生のあなたは、基礎体力はあるけど、専門技術は全然ないという「資産ゼロ」の状態なのだ
(企業はその基礎体力を買う
というより投資する)

だから、企業が学歴を見る。なぜなら、それでその人が今まで、どれだけ基礎体力(思考力など)を鍛えてきたかが分かるからだ。学校での勉強は社会で役に立たないって思ってるかもしれないが、それは、腕立て伏せなんか野球の試合で役に立たないって言ってるのと一緒だ。(もちろん試合で腕立てなんかする場面はゼロだ)

もちろん、「資産ゼロだから残念!」って話ではないよ。資産ゼロだから、これから注力すべきは、意識して自分の資産を構築していくことが大切だって話だ。

ちなみに、この資産がゼロの状態なのに「自分探し」とかに出ちゃう人がいるけど、もちろん見つかるはずがないだろう。自分は探すものではなく、作っていくものだから。  しっかりとした資産を構築すれば、将来、お金の面で困ったり、突然、会社が潰れて職を失ったりしても、特に大きな問題にはならないだろう。まとめると、現在の「収入」にこだわることはやめたほうがいい。それよりも現在の自分の「資産」にこだわろう。  お金にこだわらず、自分が資産を使って、どんな価値を作れるか、何ができるかを考えられるように、資産を構築しよう。

才能の見つけ方

自分の才能を知り、それを伸ばす方法

では、資産を構築するために重要なことはなんだろうか?

先ほども言った通り、学生の時点で自分の適性や強み、才能などがわかっている人は、一部の例外を除いて、ほとんどいない。そもそも、社会ではどんなことが「強み」として求められているのかということが分からないんだから。なので大切なのは、実際に働いてみて、ある程度いろいろ経験してみること。

じつは、自分の強みや適性を見つけるツールや心理テストみたいなのは、世の中にそれなりにある。なかでも、「ストレングス・ファインダー」っていう自己分析ツールはオススメで、ぼくの場合はめちゃめちゃ的中してて恐ろしいくらいだった(笑)。  ただ、後で詳しく話すけど、20代ってのは一気に発展・成長する時期なので、あまりこういったツールの結果を固定的に信じないほうがいいかもしれない。

強みを見つける1つのヒントとして、ぼくが後輩なんかによく言うのは、「疲れないこと」をやれってこと。

仕事をしてたら、いろんな種類の仕事をする。そのなかでも、疲れる仕事と疲れない仕事というのがある。もちろん、肉体的には全部疲れる。でも、精神的に疲れる仕事と、疲れない仕事ってのがある。  例えば、ぼくの場合は「読み書き」はいくらやっても疲れない。今、この原稿書いていて、何時間かやり続けたら終わるんだけど、終わった後に「ハァ~、疲れた~」とはあまりならなくて、「できたぁ!」といった、ある種の「心地よい疲れ」を感じる。

一方で、ぼくはセミナーとか説明会をやらなきゃいけない立場にも関わらず、「人前で話す」のが苦手。だから、説明会とかセミナーをやった後は、強烈な疲労感が襲ってくる。毎回「もうやらん」「もうやめよ」「オレ最悪だわ」と自己嫌悪に陥る。こんなことはいくら頑張って続けても、たいして上手くはならない。

だから、あなたはこれからいろんな仕事を体験すると思うけれど、そのなかで疲労感が襲ってこないで、心地よい疲れがあるものは、もしかしたらあなたの強みが活きている仕事かもしれない。学校の勉強とかでもそうでしょ?延々と方程式とにらめっこしてて、強烈な疲労感が襲う人と、心地よい疲れを感じる人がいるでしょう?それと同じこと。

どうすれば強みを伸ばせるか?

ここで嬉しいニュースがある。ここ30年ほど、世界中の心理学者は、ぼくらにとっても非常に重要な課題に取り組んできた。それは「卓越したパフォーマンス」についての研究だ。  あらゆる分野の「達人」と呼ばれるような人は、なぜ達人になったのか?何が大きな要因だったのか?「生まれつきの才能はあるのか?」という調査。で、結論はどうだったか?「生まれつきの才能はほとんど関係ない」―これが結論だった。

90年代に、心理学者のK・エリクソンがある調査を行なった。音楽アカデミーで学ぶバイオリニストを、「世界的な音楽家になれる可能性を持つ学生」「優れた学生」、そして「プロとしてはやっていけそうにない学生」の3つのグループに分け、その上で全員に同じ質問をした。  「今まで何時間、練習してきましたか?」

学生はだいたい5歳ごろから練習を始めていた。最初はみんな同じくらいのペースで練習するが、8歳くらいから差が出てきた。トップのグループが他のグループよりも多く練習に励むようになった。  20歳のころには、トップクラスの練習量は1人当たり1万時間に達していた。優れた学生は8000時間。プロにはなれないグループは4000時間だった。そして、生まれつきの天才は1人もいなかった。  他の人が練習に黙々と励むなか、その何分の1かの練習量でトップグループに入れたような人は1人もいなかった。逆に練習量は多いが、いくら頑張ってもトップに入れないというタイプもいなかった。練習量と実力は明らかに比例した。

車の運転などを想像してみるとわかるが、複雑な仕事をうまくこなすには、ある一定の練習量が必要だということはあらゆる調査結果で証明されている。さらに専門家が言うには、世界レベルに到達する人間に共通する「魔法の数字」があるという意見でも一致している。  1万時間である。

1万時間を費やせば誰でも「一流」になれる

調査からわかるのは、世界レベルの技術に達するには、どんな分野でも1万時間の練習が必要だということ。  天才と言われたモーツァルトですら、才能の問題ではなかった。タイガー・ウッズとかもそう。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズもどうやらそうらしいという話がある。

では、何が一体重要だったかというと、やはり「実践量」「練習量」だった。心理学者が才能のある人間の経歴を調べれば調べるほど、生まれ持った才能よりも、訓練の役割のほうが大きかったのだ。  モーツァルトは生まれた時から天才だったわけじゃなく、父親が最高の音楽教師で、生まれた時からモーツァルトを優れた音楽家にしようと英才教育をした。モーツァルトが最高傑作だと言われるピアノ協奏曲第9番を世に出した時、彼はたった21歳だったが、キャリアはすでに18年だった。18年の厳しく専門的なトレーニングを受けた後だったのだ。

ちなみに、ぼくがダイレクト・マーケティングをやり出してから10年足らず、21歳のモーツァルトの足元にも及ばない。22歳で社会に出たとしたら、18年後は40歳だ。しかもほとんどの人はそんな厳しい専門的なトレーニングなんか受けないからね。それで40歳デビューと考えると、天才に対する見方が全然変わるよね。

マイクロソフトを作ったビル・ゲイツは、中学生2年生の時に初めてコンピュータに触り、夢中になった。1968年に学校に導入されたコンピュータは最新の端末で、当時のほとんどの大学にもそんなものはなかった。  ゲイツはその日からコンピュータルームで暮らして、プログラミングの腕を磨いていった。ゲイツの言葉を借りると「頭はそのことでいっぱいだった」。週に7日間、1日18時間を7ヶ月連続なんて時期もあった。「体育の授業はサボった。夜も通った。週末もプログラム作り」。  ハーバード大学を中退して自分のソフトウェア会社を興す時には、すでに7年間連続ぶっ続けでプログラムの開発に取り組んだ後だった。ゲイツのような体験をした学生はどれくらいいただろう?本人曰く「世界に50人もいたら驚きだ」。

アップルを作ったジョブズは、12歳の時にヒューレットパッカード(HP)の創業者のビル・ヒューレットと出会っている。その後、HPに入り浸り、研究者と一緒に講習を受けた。HPの技術者に詳しい話を直接聞いたりもできた。HPは当時、世界で最高の技術者が集まる会社  だった。現在、資産9兆円くらいある「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェットも、株式投資を始めたのは、なんと11歳からだ。昔から兆単位の資産を持っていたように錯覚してしまうが、投資を始めて20年くらいで、やっと資産約1億円に到達(今の9万分の1だぜ)。 兆単位の資産を持つようになったのは60代なので、彼がそのキャリアを始めてから50年の歳月が経った後だ。

時間を「投資」するという発想

ぼくらは「投資した時間」の重要性をついつい忘れてしまう。しかし、一つのことに時間を投資しなければ、何者にもなれない。

一方で、時間を投資し続ければ、何者にでもなれるのかもしれない。カーネギー・メロン大学のジョン・ヘイズ教授の調査によれば、ビジネスの世界でも音楽や科学の世界でも、傑作と言われるような作品を生み出すまでは、10年くらいのブランクがあるという。

つまり、素晴らしい作品を作った人でも、最初の10年くらいは注目もされない、しょーもない作品しか出してないのだ。これを「沈黙の10年」というそうだ。最初の10年は偉大な仕事はできずに、そのための準備や練習に費やされるってことだね。

つまり、その10年間に1万時間の練習があるってことだろう。これは「何かやってやろう」「何かの分野の第一人者になろう」と思っている大志を抱いた人には、非常に参考になる研究結果じゃないかな

まとめると、自分の才能を知ってそれを伸ばすには、「疲れない仕事」を見つけて、できるだけ早い段階から時間を「積み上げる」こと。だから、社会に出てから最初の4、5年はとっても重要なのだ。

完璧な選択はできない

20代は仕事や社会に関しては完全な知識不足、経験不足だ。だからこそ、完全な選択なんてできるわけがない。 しかし、自分なりの基準を持ち、ある程度のあたりは付けて、「これかな?」と思ったものがあれば、それを一生懸命やることだ。そうすることで、次の道が見えてくるようになる。

なぜなら、一生懸命やることで、自分のなかに知識や経験、スキルなどの資産ができあがるからだ。その資産をもって次のことを考えることができる。一生懸命やって「違う」と思うなら、キャリアを変えたほうがいいだろう。しかし、それは一生懸命やってみないと見えないものだ。

最初っから最高に楽しくエキサイティングな仕事なんてこの世にない。どんな仕事にも面白い面と退屈な面がある。部活やスポーツと同じで、一生懸命やらないと、本当の楽しさはわからない。

やりたいことは見つからなくて当然

やりたいことや人生の目標、ビジョンみたいなものが見つからなくても、気にすることはない。そんなもんは簡単に見つからないからだ。

そして、どれだけ素晴らしいビジョンを持ったとしても「実行能力」がなければ、ただの夢物語になってしまう。NPOやボランティア組織の多くは、素晴らしいビジョンを掲げているが、実行能力が乏しいので、大きな成果を上げられないでいる。

なので、あなたにとって大切なことは、最初に(つっても最初の10年とかだけど)実行能力を身につけておくこと。資産を構築しておくことだ。

すると、自分自身が困らないだけでなく、「この資産を使って何ができるだろうか?」と考えられる。そうすることで、人生でやるべきことや大きな志というものが見えてくるんだ。

次は、心理的な面と、経済的な面と、両面から、どうやって仕事を選べばいいか?という話をしてるよ。

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